戸谷友則先生の講演に関する質問
Q1:
通常物質、暗黒物質もエネルギーと考えると暗黒エネルギーとあわせた総和について、過去〜現在〜未来にわたり、エネルギーの保存性は保たれているとお考えですか?
A1:
よい質問だと思います。暗黒物質や通常物質は、質量がエネルギーを担っており、質量は保存されると考えられているので、保存します。しかし、暗黒エネルギーは宇宙膨張の加速とともに宇宙全体のエネルギー総量がどんどん増えていく形になっています。暗黒エネルギーは宇宙膨張を加速させる「力」であり、その力が仕事をしてエネルギーを増やすと考えるとよいでしょう。では、その力とエネルギーはどこからくるのか、というと、宇宙膨張を記述する暗黒エネルギー入りのアインシュタイン方程式がそうなっているから、としか現時点では答えられません。古典力学でいう、ポテンシャルエネルギーのようなものを考えて、それが宇宙膨張のエネルギーに転化していると考えると、エネルギーは保存しているということができますが、ではそのポテンシャルエネルギーの源は?と考えていくと、結局、暗黒エネルギー問題が解決されるのを待つしかないようです。
Q2:
FMOSの試験動作の様子、すごいと思いました。ファイバーの指向の動力源はどうしているのですか?
A2:
ファイバーの根元に、電圧をかけると縮む素子が取り付けられていて、ある方向の素子だけを縮ませることでファイバーをまげるという原理です。
Q3:
ダークエネルギーとは量子論でいう量子真空(ZPF)のエネルギーと関係があると考えられるのでしょうか?
A3:
関係があるのかもしれません。しかし、ダークエネルギーを自然に説明できる理論が現在存在しないため、わからない、というのが正直なところです。
Q4:
ダークエネルギーが観測データを説明するのに正体不明の作用を名付けたモノであるのは、ある程度わかったのですが、理論的ブレイクスルーがその正体を説明するのに必要とのことでした。今、それこそ幾百の仮説的理論が提唱されていますが、何か、可能性のシッポでもつかんでいるような仮説はあるのでしょうか?
A4:
皆目わからない、という状況に近いと思います。なので、ひょっとしたら今提案されている仮説のいくつかはそのシッポをつかんでいるのかもしれませんし、全ての仮説が全くの見当違いなのかもしれません。私の個人的意見でどちらかに賭けろと言われたら、後者ですね。
Q5:
バリオン振動が何故、宇宙の物差しになり得るのか。基礎的なところがわからない。
A5:
これは宇宙における構造形成理論を勉強する必要があり、一般の方にご説明するのはとても難しいです。しいて言えば、宇宙マイクロ波背景放射として観測されている「宇宙の晴れ上がり」の時期は、宇宙進化にとって非常に重要で特別な意味をもつ時期であり、その時の宇宙の年齢(約40万年)以内に音速で情報を伝えられる距離スケール(音速地平線と呼んでいます)が、宇宙の密度揺らぎに刻み込まれているので、それが物差しになるということになります。
Q6:
宇宙の構造にダークマターは影響するが、ダークエネルギーは影響ないのは何故?
A6:
ダークエネルギーの雛形ともいえる、アインシュタインの宇宙項は、定義により宇宙のどの場所でも一定なので、ムラムラが成長して構造が形成されることはありません。逆に言えば、そういうものを導入すると、観測データはよく説明されるという事です。どうしてそんなものが存在するのか、というのが、暗黒エネルギーの謎という事になります。
Q7:
バリオン振動が検出されたとすれば、その振動の波長は宇宙のどの方向でも同じなのですか。
A7:
その通りです。
Q8:
バリオン振動のフーリエ解析はどの位の周期で観測するのですか?●●●は?
A8:
バリオン振動の典型的な波長は3億光年ぐらいなので、それぐらいの波長と領域サイズが対象になります。
Q9:
(東北大学の二間瀬先生にはも似たような質問をしています。)ご講演のなかで「ダークエネルギーの状態方程式(W)を求める」というような内容のお話をされましたが、そうでしょうか?一方、ダークエネルギーではなく、ダーク物質には、その状態方程式が存在するはずですが、この場合のWも-1となるのでしょうか。要するに、ダークマター(質量m)とダークエナジー(エナジーE)との、例えばE=±mc2なる関係が存在するのですか。
A9:
暗黒物質の状態方程式は、通常物質と同様で、 w=0 となります。暗黒物質の m と暗黒エネルギー E の間には、特に関係は無いと思っていただいたほうがいいでしょう。
Q10:
光と物質の相互作用に起因する「バリオン振動」は現在の恒星または実験室で観測または再現できますか。両者の関係を定式化できていますか。宇宙が膨張するにつれて、光の作用が弱まり、振幅がより弱くなると考えますが、いかがでしょうか。(別紙の質問票に図表あり)
A10:
バリオン振動の成因は、圧力による反発力なので、例えば太陽表面で観測される太陽振動や、もっと身近な例では、文字通り空気中を伝わる音波も、本質的には同じ現象です。ただし、宇宙初期は大気や恒星表面に比べて、光の圧力が物質の圧力を大きく上回っています。そのため、振動が伝わる速度もほぼ光速になっているところが大きな違いと言えるでしょう。また、ご指摘の通り、「宇宙の晴れ上がり」時期以降は、光と物質の相互作用が切れてしまうため、バリオン振動はそこで止まります。それまでの振動の兆候が、現在の銀河構造に名残として残っているとお考えください。